研究発表・最終結果
11月12日(土)、13日(日)に優秀賞受賞者を奈良大学に招待し、フォーラムを開催。12日(土)には5校7人の高校生と引率の教員に参加いただき、研究発表/特別講演/表彰を行いました。また、会場エントランスでは、佳作に選ばれたレポートのポスターを掲示しました。
研究発表では、優秀賞の生徒たちがそれぞれの研究についていきいきと発表し、素晴らしい成果発表の場となりました。最終審査の結果、学長賞、知事賞が決定しました。
最終結果
成城高等学校
片岡義秀さん
甲斐国内の扇状地における居館と詰城の地理的関係
神奈川県立足柄高等学校
歴史研究部
明治期における赤痢流行への対応
―「伝染病赤痢仮離隔病舎日誌」から―
優秀賞 研究発表
※高等学校等コード表順に発表
東京大学教育学部附属中等教育学校
嵩玲衣さん
引っ越し大名の財政苦労譚
~藩日記から読み解く松平大和守家の窮乏財政~
講評
映画「引っ越し大名!」のモデルとなった松平直矩を先祖にもつ、松平大和守家における18世紀の城地移転・財政再建策の内情について、当時の藩日記を中心に読み解いた研究である。「前橋藩松平家記録」や「前橋市史」などの文献の解析だけでなく、前橋市教育委員会へのインタビューなどの多面的な取り組みも評価出来る。藩の財政窮乏についての数値的な表記がやや物足りないが、豊かな土地への国替えを画策する松平大和守家と、海防・江戸の防備に苦心する幕府の思惑、前橋帰城を願う前橋の領民、在住商人の思いなどをうまく整理しており、定説についての疑問を提示するなど考察についても優れている。高校の卒業研究の続編的研究としているが、今後、他のテーマについても探求的な取り組みを期待したい。
成城高等学校
片岡義秀さん
甲斐国内の扇状地における居館と詰城の地理的関係
講評
戦国時代の甲斐国における居館と詰城との距離が他地域よりも大きい傾向にあることを示し、その理由を当地域の地形との関係で考察したレポートである。高山に囲まれる甲府盆地の縁辺部には多くの扇状地が分布し、その扇端部の湧水を利用して居館が立地したために、居館と山城である詰城とが離れた位置関係にならざるを得なかったと主張し、詰城は居館と近接するという従来の見解に対し一石を投じている。ユニークな着想、そして既存の知見やデータのみに頼らない独自の現地調査や分析方法が評価できる。ただし、この主張の妥当性の判断については、他地域をも加えたさらなる検討の結果を待ちたい。その検討の際、詰城の縄張り図と上述の主張との関係を明確化することや、扇状地の内部構造等に関する一層の学習がのぞまれる。
神奈川県立足柄高等学校
歴史研究部
明治期における赤痢流行への対応
―「伝染病赤痢仮離隔病舎日誌」から―
講評
本論文は先行研究を踏まえ、明治期における感染症対策に対する時代背景を論じた上で、神奈川県足柄市斑目地区の赤痢対策が記載されている明治32年(1899年)の「伝染病赤痢仮離隔病舎日誌」という貴重な一次資料を検証しているため、歴史学の手法としても分析能力の高さからも極めて優れている。とりわけ予防委員と衛生委員の具体的な活動を詳述しており、「一度は廃止されていた衛生委員が大きな役割を果たしていたことがわかった」と述べているが、このことは医学史の中でも、また現在・将来への医療行政のためにも極めて示唆に富んでいる。さらに現在は残っていない隔離病棟についても、周辺に住んでいた住民から貴重な証言を得ているところも重要である。以上の理由により、本論文を優秀賞に相応しい論文であると判断した。
岐阜県立多治見高等学校
田中裕真さん
日本における男色文化の盛衰と伊達政宗
―LGBTQ+に寛容な現代社会の形成につなげる古の失われし文化―
講評
本研究は、伊達政宗の手紙に注目し、男色に関する内容を分析することによって、日本における男色文化の変遷を歴史的に分析している。先行研究を綿密に調べ、伊達政宗の手紙を詳しく解説しながら、同性愛を軍事的側面だけではなく、信頼に基づく友愛的関係という新たな視点から捉えようとした点は大きく評価できる。また、現代社会におけるLGBTQ+との関連性を追究することで、歴史から学び、今につなげようとした優れた研究である。本研究では今後の課題として、西洋における男色文化と日本を比較すると述べられており、国際的な視点を持っているのも好ましい。可能であれば、さらに、南アジアや東南アジア地域におけるジェンダー観も視野にいれた、より質の高い研究を期待したい。
長崎県立壱岐高等学校
東アジア歴史・中国語コース2年歴史学専攻
「神宿る島」壱岐の信仰について
~歴史的変遷と特異性~
講評
信仰という無形のものは、社会生活の変容とともに形をかえ、さらには失われていくことすらある。調査整理をし、現時点での姿を記録として残すことは、社会的な意義がある。本研究は、壱岐における独特の信仰形態を、フィールドワーク中心に整理分析したものであり、地域の歴史を記し留める、極めて価値の高いものである。
文献調査で終わるのではなく、アンケート調査や聞き取り調査と、壱岐に暮らす高校生ならではの研究方法であり、さらに信仰的形態が歴史的にどのように変遷したのか、位置づけを行っていることも高く評価できる。
今後の課題としてもふれているが、神社などの信仰のかたちを、次世代につなげるために何ができるか、そのためには壱岐の暮らしの変遷や、壱岐周辺地域との比較による知見など知る必要があり、発展性を持ったテーマだといえる。今後の活動を期待したい。