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地歴甲子園-歴史フォーラム
FORUM

最終結果
<第19回(2025年開催)>
REPORT

2025年11月22日(土)、23日(日・祝)に優秀賞受賞者を奈良大学に招待し、地歴甲子園を開催しました。22日(土)には7校8人(佳作入選者含む)の高校生と引率者にご来学いただき、研究発表と表彰を行いました。
研究発表では、優秀賞と佳作入選の生徒たちがそれぞれの研究についていきいきと発表し、素晴らしい成果発表の場となりました。
最終審査の結果、優秀発表賞、知事賞、学長賞が決定しました。学長賞は2年連続で駒場東邦高等学校の伊藤さんが受賞しました。受賞された皆さん、おめでとうございます。

最終結果

学長賞

駒場東邦高等学校

伊藤 拓生さん

研究タイトル

八王子城における石垣構造とその背景
-実測分析から見る北条氏の築城思想-

知事賞

高知県立高知国際高等学校

澤田 千代子さん

研究タイトル

安政南海地震後に建てられた萩谷名号碑の碑文は、どれだけ信用性があるか

優秀発表賞

長崎県立壱岐高等学校

東アジア歴史・中国語コース2年
歴史学専攻

宮野 幸一さん

研究タイトル

壱岐中世史解明の新視点
―誰が生池城を改修したか―

優秀賞 研究発表

※発表順に掲載

駒場東邦高等学校

伊藤 拓生さん

研究タイトル

八王子城における石垣構造とその背景
-実測分析から見る北条氏の築城思想-

講評

近年、デジタル技術が考古学の調査に取り入れられ、さまざまな成果が出されている。本稿はスマートフォンの3Dスキャンアプリを駆使し、16か所の石垣で約450個もの石材データを収集・統計処理し、その結果から歴史像にせまるという極めて先進的で意欲的な取り組みと言える。要害地区における石材の縦の長さの規格化から施工管理体制を明らかにした一方で、主君の居住する居館地区では、大型石材の採用によって石材のサイズにばらつきが生じていること、そしてそれが権威の表象という政治的意義と捉えた考察は秀逸である。 単なる遺構の観察にとどまらず、データの裏付けを持って当時の社会構造や築城思想に迫るプロセスは明快で、まさに研究の醍醐味ともいえる。他の北条氏支城などにも同じ手法を用いて比較するなど、今後の研究の発展にも大いに期待できる。

岐阜県立関高等学校

地域研究部

酒向 絆叶さん、小森 渚さん

研究タイトル

~天正二年秋、郡上郡沓部をめぐって何が起きたか~

講評

文句なしにおもしろかった。 天正2年秋の領土紛争が発生した原因について、文献・史跡・地形・棟札など駆使して、地域に根差して復元・解明していくスリリングな探究だった。まさに日本史探究の鏡だろうか。戦国大名の動向や家臣の反目など武士の視点だけなく、国境(境目)における地域社会の課題として捉えている。これは、境界の地域紛争を重視している現在の中世学界の課題とシンクロしている。 また、山城見学や棟札調査など、メンバーが議論して楽しく学んでいる様子がうかがえ、集団調査が効果的に作用していることも特記したい。

長崎県立壱岐高等学校

東アジア歴史・中国語コース2年
歴史学専攻

宮野 幸一さん

研究タイトル

壱岐中世史解明の新視点
―誰が生池城を改修したか―

講評

本研究は、壱岐の山城の特徴の分析から合戦の経緯を推察することにより、中世の壱岐における統治勢力の興亡を読み取ることを目標とする。文献の少ない壱岐の中世史の解明にあたり、島内の城郭遺跡としては大規模であり、しかも比較的良好な状態で地表に遺構が残存する生池城をとりあげ、考古学的手法でアプローチしている。文献史料や大縮尺地図の考察に加えて、現地での実地踏査により遺構の防御構造や地形的な立地条件などを入念に観察している。そして、生池城の防御が北側に固いことに着目し、北側からの攻撃が行われた合戦を生池城の改修の契機として特定する独自の推論を行った。その過程は自身の様々な調査の分析結果を論理的に積み上げたものであり、今後さらに検討の必要な点も自ら指摘しており、科学的な姿勢での取り組みに好感の持てる研究であった。

高知県立高知国際高等学校

澤田 千代子さん

研究タイトル

安政南海地震後に建てられた萩谷名号碑の碑文は、どれだけ信用性があるか

講評

本研究では、安政南海地震(1854年)の被害を伝える「萩谷名号碑」(1857年)を対象として、震災の伝承・証言が後代に伝わる様相を調査し、碑文記事の信頼性を考察する。碑文の記事と、安政南海地震の記録が残る『真覚寺日記』を比較検討し、不特定多数の人々に被害を伝えることを企図した碑文建立の意義を明らかにした。次いで、昭和南海地震(1946年)経験者への聞取調査などをもとに、碑文の教訓が後世に活用されていく様子を追究する。明快な結論が打ち出せていない嫌いがあるが、それは誠実に調査した証左とも言える。歴史地震研究的視座から文献と証言を活用した考察は興味深い。また、全国各地で震災が発生する中で「防災」という今日的問題に着目した本研究は、時宜を得たテーマと評価できる。引き続き、他の伝承碑も調査することを期待している。

筑波大学附属坂戸高等学校

梶野 拓夢さん

研究タイトル

越辺川の河床遺跡を検討する
‐新発見の越辺川吹塚西袋町A地区A1・A2地点河床遺跡を中心として‐

講評

本研究は、埼玉県川島町の荒川・入間川流域で縄文時代中期河床遺跡の存在が多数報告されているのに対して、同じ川島町の越辺川流域ではこれまでその確認例がないということを承けて、越辺川流域の未調査領域で調査を行ったものである。結果として、入間川・荒川流域の縄文遺跡とは年代が異なるが、反町遺跡や銭塚遺跡など古墳時代中期以降の6~7世紀の遺跡から流出した可能性の高い、埴輪片や須恵器片などの遺物をもつ二次遺跡の発見に成功している。その文献及び現地調査の方法は包括的、明示的であり、個々の遺物の状態も、図表や写真などを利用してわかりやすく提示されている。また、遺物の微細な観察から導き出された、土器の器種、形状、組成、作成年代、作成方法、遺物の器内位置などの判断も、他の遺跡の出土遺物と比較しつつ、手堅くなされている。総合的な結論としての、A地区遺跡全体の性格や構築年代、出所(流出元)の推定についても同様で、到達度の高い研究であり、新たな遺跡の発見を含め、さらなる進展が期待される。