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史学科のトピックス
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2023年度奈良大学文学部史学科卒業論文から優秀論文3本が選ばれました。

2023年度奈良大学文学部史学科卒業論文は、合わせて144本提出されました。

いずれも史学科での学びの集大成にふさわしい渾身の論文ばかりでした。
史学科では、そのなかから傑出した論文を学科教員の合意のもと優秀論文として選出しました。

選出されたのは、小池裕介さん(長野県 伊那弥生ケ丘高等学校出身)、堤稜馬さん(福岡県 大牟田北高等学校出身)、中田悠斗さん(北海道 クラーク記念国際高等学校)の3名です。

ここに著者名(五十音順)と論文名、そして講評を記し、その優れた研究活動を表彰したいと思います。
3名には卒業式に表彰状も授与します。

小池裕介「明治初年の農民騒擾―飯田二分金騒動を中心に―」

講評

 幕末から明治初年にかけて、各地で粗悪な二分金が流通し地域経済を混乱させた。信州の飯田地方では、その責めを問う農民の声が大きくなり、豪商・富農宅を襲い焼き討ちにする騒擾が明治2年8月に発生した。飯田やその周辺地域では、養蚕業や、頭髪の髻を束ねる元結と呼ばれる紙製品の生産が盛んであり、これら生産品の運送を担う流通業も発達していた。本論文は、こうした地域の生業構造の特色を考察することを通じて、二分金騒動発生の背景を明らかにしようとしたものである。
 明治初年に各地で発生した農民騒擾については、すでに多くの研究が蓄積されているが、本論文は、そうした研究史を踏まえつつ、地元に残された二分金騒動にかかわる史料を原文書にあたって調査し、騒動が大規模になり、かつ過激化した要因を丹念に考察して、すぐれた内容となっている。

堤稜馬「日本古代における「レガリア」の変容―「二種の神璽」から「三種の神器」へとなった背景を中心に―」

講評

 天皇のレガリアとして重視されるいわゆる「三種の神器」は、元々は二種であり神璽と呼ばれていた。律令における神璽の内容の再検討からこの点を確認した上で、『日本書紀』における鏡・剣と曲玉の位置付けの違いを論じる。そして、9世紀に先帝から新帝に渡される宝物を、儀式書の記載も含めて比較検討することで、清和天皇の時からレガリアとして曲玉が加わったことを突き止める。またその背景として、幼帝清和の即位と藤原氏、ことに基経の思惑があり、元々レガリアを三種とする藤原氏の主張の正当化が図られたことを意味した。さらに天災が頻発した貞観年間の牛頭天王信仰の影響も想定している。
 『日本書紀』から『日本三代実録』に至る正史六国史をはじめ、法制史料である律令、『西宮記』『北山抄』『小右記』など儀式書や貴族の日記に至る、日本古代の多様な史料を深く読み込んだ上で立論されており、構想力の豊かさも特筆に値する。卒業論文として、非常に高い水準にある論文である。

中田悠斗「1930年代の国際観光政策と地域社会―愛知県蒲郡を事例として―」

講評

 1930年に政府は外国人観光客の誘致をめざした国際観光政策を打ち出し、各地でリゾート地の開発を進めようとした。本論文は、愛知県蒲郡における国際観光政策の展開過程と第二次大戦後への影響について論じたものである。
国際観光政策の引き受け手の多くは大倉財閥や鉄道会社などの大資本であったが、蒲郡では主として地元の旅館経営者と蒲郡町行政が担っており、地域との結びつきが強固であったという点に特色があった。従来は、戦時体制の深化のなかで蒲郡の国際観光政策は効果を上げられず失敗に終わったとの評価が一般的であったが、本論文は、史料を博捜することにより、蒲郡における政策の展開過程を詳細に明らかにし、リゾート地としてのインフラ整備を進めたことが、第二次大戦後の蒲郡の発展につながったと論じた。第二次大戦期と戦後期をつなぐ、1930~50年代の地域の社会経済史をあつかった、すぐれて実証的な論文であると評価することができるだろう。

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