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2025.09.28
【教員の研究活動】奈良大学文学部史学科の足立広明先生(西洋史)がキリスト教史学会で研究発表しました。
奈良大学文学部史学科の足立広明先生(西洋史)が9月12日(土)龍谷大学で開催のキリスト教史学会で研究発表しました。テーマは「ヒュパティアとエウドキア―分断と対立を超える古代末期の女性たち」というものです。
ヒュパティアは古代末期の4-5世紀にエジプトのアレクサンドリアで活躍した女性哲学者で、総主教キュリロスに危険視され、キリスト教徒の暴徒に殺害されました。その死は古代的知性の終焉と暗黒の中世の始まりの象徴として18世紀啓蒙主義時代以来喧伝されてきました。しかし、発表者の足立はこうした二項対立的な単純な見方を疑問視し、彼女が多くのキリスト教徒の弟子を惹きつけていたことに着目、彼女は伝統的な「異」教の最後の知性であったのではなく、キリスト教と「異」教を横断する新しい同時代的な可能性を有していたことを以前の論文で発表しました。
本発表はそれに続いて、彼女の死はそのままある時代の終わりを画するものではなく、彼女と同じく哲学者の父の娘として生まれ、「異」教時代の叙事詩を用いて聖書物語を書いたほぼ同時代で少し遅れて登場した女性エウドキアが同じく伝統文化とキリスト教を横断する知の在り方を示し、なおかつこの時代を生き延びて作品も残したことを示しました。宗教上の分断と対立の深まる古代末期の時代状況のなかで、彼女は自身の建設補修した公共浴場の碑文に、温泉の湯はそれに浸かる者を性別、人種、宗教で区別せず、とくに苦しみの中にある人ほど癒されると刻みました。古代の女性が現代に遺した数少ない貴重な史料にこのような文言が、とくに現在イスラエルの占領するゴラン高原の遺跡で発見されたことには感慨を覚えます。