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2025.08.02
奈良大学文学部史学科特別講義(7月28日)が、関西大学教授嶋中博章先生(本学出身)をお迎えして開催されました。
関西大学教授嶋中博章先生(本学出身)をお迎えして史学科特別講義(7月28日)が開催されました。嶋中先生は本学史学科で守山記生先生の下でフランス近世史を学び、本学卒業後も関西大学大学院で主にルイ14世時代の宮廷文化について長年研究を重ね、多くの著書、論文、訳書を上梓されています。
その学風を一言で表現するなら史料の細部へのこだわりであり、パリに長く滞在されながらエッフェル塔にも上らず、人の通うことも少ないがらがらの古文書館でひたすら手稿本史料と格闘するというものです。しかし、それは単なる史料読みのための史料読みではありません。ルイ14世という、高校の教科書に出ているのはもちろん、世界史など習ったことのない人でも、彼が語ったという「朕は国家なり」という言葉は聞いたことがあるという代表的な絶対君主の治世を素材にしながら、その周辺に仕えてほとんど知られることのなかった廷臣たちの世界を手稿書簡史料から生き生きと蘇らせることに成功しているのです。
筆頭侍従をはじめとする廷臣たちは王の下の世話を名誉と感じ、誰が王に先に服を着せるかといった、今日の我々からするとどうでもよいようなことでお互いに争いを繰り広げます。しかし、その席次やしきたりは王といえども簡単に介入することはできず、そこに嶋中先生はこれまでの通説が見過ごしてきた貴族の自立性を読み込んでいくのです。世界的にみても、たとえば同時代の中国や朝鮮の宮廷、それに日本の将軍に仕えた側用人などとの比較史も面白いかもしれません。
嶋中先生は、こちらが思った以上に本学のことがなつかしかく感じられていたようで、講演も教授と学生というより、同じこの大学の先輩という語り口で、身振り手振りを交え、話し方が早すぎないかなどを問いかけながら、親しみやすい形で進行しました。本学のある先生がおっしゃっていましたが、適切な素材を選び、史料と先行研究を踏まえてその先に自らのオリジナリティのある見解を構築するという、まさに歴史研究のお手本のような講義をありがとうございました。現場でも、感想をみても、多くの学生が真剣に聞いて、問題意識を掻き立てられていたことが実感できます。
ただ、残念なことに、こちらの不手際でせっかくのご講演の写真撮影にまで気が回りませんでした。代わりにはなりませんが、先生のパワポスライドから2枚のみご自身撮影の写真付きのスライドを貼り付けておきます。先生の通われた古文書館の外観と、本講演で中心となった筆頭侍従の実務能力を示す手稿史料の写真とその説明です。