TOP

国文学科のトピックス
TOPICS

三輪山の神話と万葉の世界を歩く ― 実地見学踏査で古代を体感

10月18日、国文学科の学外研修として、授業「実地見学踏査」(担当:鈴木喬先生)で三輪山周辺を散策しました。

 

奈良盆地の東南部に位置する三輪山は、山そのものを神として祀る古い信仰の姿を今に伝える場所です。その麓には、3世紀頃に大規模な集落が形成された纒向遺跡があり、古代の政治や祭祀を考えるうえでも重要な地域となっています。

今回の研修では、三輪山を中心に、『古事記』『日本書紀』に記された神話や伝承、そして『万葉集』の和歌に触れながら、文学が生まれた土地の歴史と文化を実地に学びました。

 

三輪山登拝 ― 山そのものを神として仰ぐ

午前中は、学生たちの強い希望もあり、三輪山への登拝を行いました。

三輪山は、大神神社の御神体として信仰されている神聖な山です。登拝は、一般的な登山やハイキングとは異なり、御神体である山に入り、祈りを捧げる信仰の営みでもあります。学生たちは、山の自然と向き合いながら、一歩一歩、山頂を目指しました。元気に登っていく学生たちに対し、引率の鈴木先生は少々お疲れの様子。そんな一幕もあり、学びのなかに笑顔の生まれる時間となりました。

 

大神神社は、『古事記』『日本書紀』にもその由来が記される古社です。主祭神の大物主大神をはじめ、国造りや神話に関わる神々への信仰が伝えられています。

大神神社には、一般的な神社に見られる本殿がなく、三輪山そのものを御神体として拝みます。山を聖なる場所として守り、自然と神と人との関わりを大切にしてきた信仰のあり方を、現地で実感することができました。

 

この三輪山への信仰を考えるうえで、関連する『万葉集』の歌も見逃せません。

三諸は 人の守る山 本辺には
馬酔木花咲き 末辺には
椿花咲く うらぐはし
山そ 泣く子守る山

(『万葉集』巻十三・3222番歌)

【現代語訳】三諸の山は、人々が大切に守っている山である。麓には馬酔木の花が咲き、山の上の方には椿の花が咲く。なんと美しい山だろう。泣く子を守るように、大切に守られている山よ。

 

この歌からは、山の美しさをたたえるとともに、山を大切に守る人々の意識もうかがえます。歌に詠まれた自然を実際に目にすることで、文字だけでは捉えきれない古代の人々の自然観や信仰について、考えを深めることができました。

久延彦神社 ― 古典に登場する「知恵の神」

続いて訪れたのは、知恵の神として知られる久延彦神社です。

御祭神の久延毘古は、『古事記』に「足は行かねども、天下の事を尽に知れる神」と記される神です。自ら歩き回ることはできなくても、天下のことを何でも知っている存在として描かれ、かかしを神格化したものとも考えられています。

神社の展望台からは、大和三山や葛城山、二上山などを望むことができました。古典文学に登場する神々の伝承と、奈良盆地の地形や風景とを結びつけて考える、貴重な機会となりました。

 

狭井神社 ― 病気平癒と古代の祭祀

狭井神社では、病気平癒や健康を祈る信仰について学びました。

大神神社の摂社である狭井神社は、病気を鎮める神として古くから信仰されています。境内では、古代以来の祭祀の伝統を伝える「鎮花祭」にも思いを巡らせました。『令』や『延喜式』などの史料に見える祭祀の記述を、実際の信仰の場と結びつけて考えることができます。

また、境内には薬井があり、学生たちは健康を祈願しながら水で喉を潤しました。古代の祭祀や神への祈りが、現代の人々の暮らしのなかにも息づいていることを感じるひとときでした。

 

山の辺の道 ― 万葉歌の風景を歩く

三輪山周辺を通る山の辺の道は、奈良盆地の東麓に沿って延びる古道です。沿道には、『古事記』の歌謡や『万葉集』の和歌に関わる歌碑などが点在しています。

古代の人々が行き交った道を実際に歩き、歌に詠まれた土地の風景を目にすることは、国文学を学ぶうえで大きな意味を持ちます。歌の言葉や表現を読み解くだけでなく、その背景にある地形や自然、信仰、生活にまで目を向けることで、作品への理解がより深まります。

 

檜原神社 ― 「元伊勢」と伝えられる聖地

研修の後半には、檜原神社を訪れました。

大神神社の摂社である檜原神社は、一般的な神社に見られる本殿や拝殿を設けず、三ツ鳥居(三輪鳥居)を通して神聖な場所を拝する独特の形式を伝えています。

この周辺は、天照大御神が伊勢に鎮座する以前に祀られた場所と伝えられる「笠縫邑」に比定され、「元伊勢」とも呼ばれています。『日本書紀』などに記された天照大御神の祭祀の歴史を思い起こしながら、古代の信仰と伝承が受け継がれてきた土地を歩きました。

 

体験を通して学ぶ国文学

「実地見学踏査」は、奈良各地を実際に訪れ、古典文学や歴史、信仰、地域文化について学ぶ授業です。文献を読むだけでは得られない発見があり、現地を歩くことで、古典の世界がより具体的な姿をもって立ち現れてきます。

もちろん、研修の楽しみも欠かせません。学生たちは御朱印をいただいたり、お守りを購入したり、お団子を味わったりしながら、三輪山周辺の文化に親しみました。

今回のお土産は、三輪そうめんの「ふし」です。「ふし」とは、手延べそうめんを製造する過程で生じる、棒に掛かった曲がりの部分などを乾燥させたもの。三輪は、手延べそうめんの発祥地としても知られています。文学や歴史だけでなく、土地に根づいた食文化にも触れることができました。

 

古典文学は、書物のなかだけに存在するものではありません。山や道、神社、そして地域の人々の暮らしのなかにも、その世界につながる手がかりがあります。

三輪山周辺を自ら歩き、見て、感じ、考えた今回の研修。学生たちにとって、古代文学への理解を深めるとともに、実地で学ぶことの大切さを実感する一日となりました。

三輪山1.png三輪山2.png三輪山3.png三輪山4.png三輪山5.png三輪山6.png三輪山7.png三輪山8.png三輪山9.png三輪山10.png

アーカイブ
ARCHIVE

関連記事
RELATED ARTICLES