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2022/08/19

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木田隆文教授が10年にわたって収集した幻の文学雑誌 『上海文学』 の完全復刻版が刊行!

 木田隆文先生(日本近現代文学)が編集した『上海文学 復刻版』(琥珀書房)が2022年7月26日に刊行されました。先生は原本の収集・復刻と、解説冊子の「解題」を担当しています。
 
■戦時下上海で刊行された邦人文学雑誌『上海文学』
 『上海文学』(1943年4月~1945年5月)は、第二次世界大戦時に上海で出版されていた文学雑誌で、中国で出版されていながらも、日本語で書かれています。
 当時の上海は日本の支配下にあり、多くの日本人が暮らしていました。『上海文学』は、その地で活動した日本人文学者を集めた上海文学研究会が刊行した雑誌です。
 同誌は奈良県出身の池田克己が編集者を務め、小説「ひかりごけ」で知られる武田泰淳や、「長江デルタ」で芥川賞を受賞した多田裕計、日中の文化人交流に影響を与えた内山完造ら、文学史上も著名な作家たちが多数執筆していました。
 
■戦争の傷として封印された海外の日本文学を、10年かけて発見。
長い間、幻とされていた『上海文学』原本
 
 『上海文学』は日本が戦争を遂行するための宣伝媒体としての役割も持っていました。そのためこの雑誌は、戦争の負の側面を表す無価値なものとして処分され、その全貌は長らく謎となっていました。
 木田先生は、2010年代に創刊号と3~5号を発見。さらに昨年6月、所在不明だった第2号を発見して全5号すべてを収集しました。この調査・研究の過程で、木田先生は、戦後派作家として知られる武田泰淳が、すでに戦時中に『上海文学』 で小説を発表していたことを発見するなどの成果を収めました。
 今回出版された復刻版の解説書も、木田先生の調査・研究の成果が盛り込まれています。
 
■幻の『上海文学』を完全復刻!
 『上海文学』は、現在、発行地の中国でも閲覧できる本が残っておらず、研究者の間でも復刻が久しく待たれていました。本復刻は原本の体裁をそのまま復元し、そこに別冊の解題をつけることで、『上海文学』の雰囲気と意義が広く伝わるように工夫されています。
 それは外地文学や日中関係を研究するうえで貴重な本資料を、広く世の中へ還元したいという木田先生の願いから生まれたものです。
 
■「抵抗/協力の二分法では片付かない、戦時上海の複雑な様相を解きほぐす」
                        文学部国文学科 教授 木田隆文
 『上海文学』は、戦時上海の文芸文化の実態を克明に証言する文献です。
 同誌には武田泰淳ら著名作家の未発表作品が掲載されているだけではなく、現地作家のさまざまな活動、さらには同地の言論・メディア・文芸文化政策の実態を知らせる重要な情報が記されています。また同誌は、その使命として戦争協力への使命を強く宣言していましたが、そこに掲載された作品を読み解くと、それぞれの作家が戦争に協力する素振りを見せながら、それをさまざまな表現技法を駆使して裏切ってゆくさまも見受けられます。
 『上海文学』には、外地、そして戦時下を生きる作家たちの多様な文学的試みや戦争への対応がよみとれるとともに、抵抗/協力の二分法では割り切れない日本統治下上海の言論・文化状況の複雑さ自体が示されています。
 本復刻の刊行が、日本統治下上海の新たな研究ステージを生み出すことを期待しています。
 
■書籍詳細
 書籍名: 『上海文学 復刻版』
 解 題: 木田隆文(奈良大学教授)
      趙夢雲(東大阪大学教授)
 原 本: 奈良大学図書館、個人蔵
 出版社: 琥珀書房
 発行日: 2022年7月26日
 出版社ホームページ(外部リンク)
 
 

 

 

 

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