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史学科からのお知らせ

2022/10/04

ニュース

奈良大学文学部史学科の足立広明先生(西洋史)がキリスト教史学会「第73回大会」で研究発表を行いました。

 足立広明先生(西洋古代史)が、9月13日(火)に行われたキリスト教史学会「第73回大会」(オンライン開催)で研究発表を行いました。
 
発表テーマ:
皇妃エウドキアと『殉教者キュプリアノス伝』
―古代末期の女性エージェンシーの変容 
 
発表概要:
 学会では古代末期のコンスタンティノープルでローマ帝国の皇后となったエウドキアの書いた詩作について発表しました。彼女の生きた時代は、太古から続いた多神教が消滅し、一神教のキリスト教が支配的となる転換期でした。彼女はこれを体現する生涯を送りました。ギリシアの古都アテナイで哲学者の娘として生まれ、その名もアテナイスと言いました。ホメロス叙事詩などの古典教養を身に付けて育ちましたが、20歳のとき父が亡くなると、追われるようにして当時の首都コンスタンティノープルに上り、ここで洗礼を受けてキリスト教皇帝の妃となり、エウドキアと名乗りました。しかし、20年後再びその地位を追われ、イェルサレムに巡礼し、ベツレヘムの別邸で生涯を終えたのです。隠遁してからもその生活は平穏とはならず、次第に「異」教徒や「異端」に不寛容さを増す風潮のなかでユダヤ人や非正統派のキリスト教徒を保護しようとして衝突に直面しました。この時代に彼女は多くの作品を執筆し、当時例のない女性の視点から描いた貴重な史料を残したのです。
 発表では、その彼女の作品のうち、『殉教者キュプリアノス伝』を取り上げました。これは女性使徒テクラと同じ道を歩もうとする娘ユースタと、彼女を悪魔を使って誘惑しようとして失敗、逆に改宗する魔術師キュプリアノスの物語で、上述の「異」教からキリスト教への転換の時代の産物です。この作品について、娘ユースタにエウドキアのエージェンジー(主体)を見出そうとする先行研究を踏まえつつ、発表者の足立はユースタはエウドキアの理想的自己であり、アテナイの伝統的古典教養のなかに育ち、ベツレヘムの別邸に行きつくまでの迷いつつ歩んだ現実の彼女の姿は魔術師キュプリアノスの歩みにこそ投影されているのではないかということを、一人称単数の語りの箇所などから分析して示しました。
 彼女が建設した公共浴場には、浴場の湯は宗教や出自にかかわらず入浴する人を癒すという趣旨の碑文が刻まれています。また、発表末尾に触れましたが、彼女のもうひとつの作品『ホメロス風聖書物語』では、聖書に出てくる女性が『オデュッセイア』のナウシカアのように雄弁で、イエスは故郷で待つ妻ペネロペイアの前に現れるオデュッセウスのようにその母の前に復活します。彼女がどうやってこうした作品を書き得たのか、今研究中です。

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