美し記

奈良大学

国文学科

谷崎潤一郎「痴人の愛」のヒロインをベースに
大正時代のモダンガールの立ち振る舞いを探る

国文学科は、大正時代を担当。
当時、流行の最先端を走っていた若い女性たち、通称「モダンガール」を調べることになりました。数多くある大正時代の文学作品から題材に選んだのは谷崎潤一郎が1924年(大正13年)に発表した「痴人の愛」です。

道徳功利性を廃して、美の享受・形成に最高の価値を置く耽美主義を代表する作家である谷崎作品は「美し記」のテーマにピッタリだという意見がありチームメンバーで議論し決まりました。

この小説のヒロインは小悪魔的な美少女ナオミ。
西洋文化が台頭し、解放的になっていった大正時代の時代背景を色濃く反映したヒロインで、外見的には当時の人々が抱いていた理想の女性像に近いだろうということで、まず小説の中からナオミの容姿に関する記述をピックアップすることにしました。

- 以下「痴人の愛」からの抜粋 —

「実際ナオミの顔立ちは、(断って置きますが、私はこれから彼女の名前を片仮名で書くことにします。どうもそうしないと感じが出ないのです)活動女優のメリー・ピクフォードに似たところがあって、確かに西洋人じみていました。」

「でもみんなが私のことを混血児みたいだってそう云うわよ」

「私はあきらめながら、他の一方ではますます強く彼女の肉体に惹きつけられていったのです。そうです、私は特に『肉体』と云います、なぜならそれは彼女の皮膚や、歯や、唇や、髪や、瞳や、その他あらゆる姿態の美しさであって、決してそこには精神的の何物もなかった」

こういった記述からわかったことは、西洋人的顔立ち、日本人らしくない顔立ちへの憧れがこの時代強まっていたこと、また肉体・表層の美へより着目するようになっていたという点です。

服装面では、当時のモダンガールの写真を見ると膝下丈のスカートに帽子というスタイルが一般的でした。
これはスポーツや旅行をする人が増えて軽快な服装が求められるようになったこと、さらに洋画を見る機会が増えたことで、洋装への関心がますます高まったことが影響していのだと推測されます。

もちろんモダンガールといえば洋装が一般的ですが、「痴人の愛」を読むとナオミの和装も特徴的で、ナオミは従来の伝統的な着物の着付けをしておらず、自分らしいアレンジ、大胆な着方(着物にハイヒールなど)を取り入れている点において、現代の和モダンを先取りしていたといえるかもしれません。

チームメンバーで実際に大正・昭和期の着物を収集されている郡山八幡神社を訪ね、現代風アレンジでの試着を体験してみました。
着方、小物類を工夫すれば「モダン」に着こなせることができると体験を通じてわかりとても貴重な機会となりました。自由・工夫・大胆といったキーワードがこの時代のファッションの根底にあるのだと感じられる体験でした。

髪型はというと、大正時代に大流行した髪型に「耳隠し」があります。
束髪やパーマを用い大きなウェーブを付け、サイドの髪で耳を隠すようにゆったりと後ろでまとめたスタイルが一般的でした。

因習を脱ぎ捨て、颯爽と歩くモダンガールたちは、当時の若い女性の憧れのまとであったと思います。「痴人の愛」に登場するナオミは、自由奔放で過去の因習にとらわれない、新しい女性像を持っています。「痴人の愛」の刊行時には「モダンガール」という語は一般的ではなかったのですが、彼女はその先駆けとでもいうべき存在であり、そこに見られる自由さ・新しさ・西洋への憧れといったエッセンスが、「痴人の愛」に象徴されているのではないでしょうか。

プロジェクトメンバー

  • 青野 響(アオノ ヒビキ)
  • 有間 洋樹(アリマ ヒロキ)
  • 酒井 駿(サカイ シュン)
  • 田中 智浩(タナカ トモヒロ)
  • 長滝谷 歩(ナガタキヤ アユミ)
  • 眞砂 梢(マサゴ コズエ)
  • 松井 麗(マツイ ウララ)
  • 松田 幸輝(マツダ コウキ)
  • 山里 実紗希(ヤマザト ミサキ)
  • 吉田 朱里(ヨシダ アカリ)